川や池の近くで「ヌートリア」を見かけることがあります。大きなネズミのような姿に驚いたり、不安を感じたりする人も多いでしょう。ヌートリアは本来南米原産の動物で、日本では外来種として生息しています。本記事では、ヌートリアの特徴や性格、食べ物、人間に害があるのかどうか、さらには似た動物との違いについても詳しく解説します。もし見つけたときにどう対応すべきか、理解を深める参考にしてください。

ヌートリアとはどんな動物?
まずは、ヌートリアがどのような動物なのか、基本的な情報から見ていきましょう。
南米原産で日本に持ち込まれた外来種
ヌートリアは、南アメリカ大陸を原産とする大型のげっ歯類です。日本には本来生息していませんでしたが、1930年代頃から軍服などに使う毛皮をとる目的で輸入され、飼育が始まりました。しかし、第二次世界大戦後、毛皮の需要が激減したことなどから、多くのヌートリアが野に放たれたり、飼育場から逃げ出したりして野生化しました。
現在では、その繁殖力の高さから西日本を中心に生息域を広げており、生態系や農業への影響が懸念される「特定外来生物」に指定されています。そのため、許可なく飼育・運搬・保管・輸入することは法律で禁止されています。
大きさや体の特徴(歯・しっぽ・毛並みなど)
ヌートリアは、一見すると巨大なネズミのような姿をしています。主な特徴は以下の通りです。
大きさ
体長は約40~60cm、しっぽの長さが約30~45cm、体重は5~9kgほどになり、ドブネズミよりもはるかに大きいのが特徴です。
歯
門歯(前歯)は非常に硬く、鮮やかなオレンジ色をしています。これは歯のエナメル質に鉄分を多く含んでいるためで、植物をかじり取るのに役立っています。
しっぽ
ネズミのように丸くて長いしっぽを持ち、泳ぐときに舵(かじ)の役割を果たします。ビーバーの平たいしっぽとは大きく異なります。
毛並み
防水性と保温性に優れた密度の高い下毛と、硬い上毛の二重構造になっています。色は茶色やこげ茶色が一般的です。
手足
後ろ足の指の間には水かきが発達しており、泳ぎが得意です。
ヌートリアの性格と行動の特徴
見た目から獰猛(どうもう)なイメージを持つかもしれませんが、実際の性格はどうなのでしょうか。
おとなしいが警戒心が強い動物
ヌートリアの性格は、基本的におとなしく温厚です。人間を見かけると、多くの場合、驚いて水中に逃げ込んだり、巣穴に隠れたりします。
しかし、それはあくまで人間との間に距離がある場合です。追い詰められたり、子どもを守ろうとしたりする際には、防衛のために攻撃的になることもあります。特徴的な大きな前歯で噛まれると大怪我につながる危険性があるため、かわいいからといって安易に近づくのは禁物です。
水辺を好む暮らしと習性
ヌートリアは、その生態から「沼狸(しょうり、ぬまたぬき)」という和名も持ちます。川や池、沼地などの水辺を好み、ほとんどその周辺から離れることなく生活しています。
岸辺の土手に巣穴を掘って暮らし、主に夜行性で、日中は巣穴や草陰で休んでいることが多いです。泳ぎが非常に得意で、水中に数分間潜ることもできます。

ヌートリアが食べるもの
ヌートリアは何を食べて生きているのでしょうか。その食性が、人間社会に影響を与える一因となっています。
草食性で植物を主に食べる
ヌートリアは基本的に草食性で、水辺に生える植物の葉、茎、根などを主食とします。特に、ホテイアオイやアシ、マコモといった水生植物を好んで食べます。時折、貝類などを食べることもありますが、食生活の中心は植物です。
農作物への被害が問題視される理由
ヌートリアの食性は、農業に深刻な被害をもたらすことがあります。水辺から農地に侵入し、イネや大豆、ニンジン、サツマイモ、白菜といった作物を食い荒らしてしまいます。
また、食害だけでなく、水田の畦(あぜ)や堤防に巣穴を掘ることで、水を抜いたり、畦を崩壊させたりする被害も報告されており、農業従事者にとっては非常に厄介な存在となっています。
ヌートリアは人間に害がある?
直接的な攻撃性は低いものの、人間社会への悪影響は無視できません。
直接的な危険性は低いが注意すべき点
前述の通り、ヌートリアは本来おとなしい動物であり、積極的に人を襲うことはほとんどありません。しかし、むやみに手を出したり、刺激したりすると、身を守るために噛みついてくる可能性があります。
また、野生動物であるため、どのような病原体や寄生虫を持っているか分かりません。見つけても絶対に触らないようにしましょう。
農業被害や環境への影響
人間への直接的な害以上に問題となるのが、農業被害と環境への影響です。
農業被害
イネや野菜などの食害、水田の畦の破壊。
環境への影響
希少な水生植物を食べ尽くし、在来種の生態系を破壊する。また、堤防に穴を掘ることで治水への悪影響も懸念されています。
これらの被害の深刻さから、多くの自治体で駆除対象となっています。

ヌートリアと似た動物の比較
ヌートリアは、他の水辺の動物と見間違えられることがあります。ここで代表的な動物との違いを整理しておきましょう。
動物の種類 | 特徴的な違い |
カピバラ | ・大きさ: カピバラの方がはるかに大きい(体長1m以上)。 ・しっぽ: ヌートリアは長いが、カピバラのしっぽはほとんどない。 ・生息地: 日本ではカピバラは動物園でのみ見られる。 |
ビーバー | ・しっぽ: ヌートリアは丸く細長いが、ビーバーは平たく大きなうちわ状。 ・行動: ビーバーは木をかじり倒してダムを作る習性がある。 ・生息地: 日本ではビーバーは野生化していない。 |
ドブネズミ | ・大きさ: ヌートリアはドブネズミの数倍大きく、成獣を見間違えることは少ない。 ・生活場所: ヌートリアは水辺からほぼ離れないが、ドブネズミは市街地など広範囲に生息する。 |
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ヌートリアを見つけたらどうする?
もし実際にヌートリアに遭遇した場合、どのように対応すればよいのでしょうか。
近づかず静かに観察することが大切
最も重要なのは、「近づかない・触らない・餌を与えない」の三原則です。ヌートリアを刺激しないよう、安全な距離から静かに見守りましょう。特に、餌付けは絶対にしてはいけません。人慣れした個体は人間を恐れなくなり、予期せぬトラブルを引き起こす原因となります。また、外来種を助長することにもつながります。
行政や専門機関への連絡が望ましいケース
以下のような場合は、お住まいの市役所や町役場の環境保全課や農林課など、担当部署に連絡・相談することをおすすめします。
- 自宅の敷地内や、田畑などで被害が出ている場合
- 住宅地で頻繁に見かけるようになり、生活への影響が心配な場合
- ケガをしている個体を見つけた場合
個人での捕獲は法律(鳥獣保護管理法)で禁止されているため、必ず行政機関に判断を仰ぎましょう。

ヌートリアとの共生は可能か
最後に、外来種であるヌートリアと私たちはどう向き合っていくべきか考えてみましょう。
外来種としての扱いと駆除の現状
特定外来生物であるヌートリアは、日本の生態系を守る観点から、これ以上生息域を広げないための対策が必要です。そのため、被害が深刻な地域では、残念ながら駆除(捕獲)が行われているのが現状です。これは、在来の動植物や私たちの生活を守るために必要な措置と考えられています。
自然環境と人間社会のバランスを考える
一方で、ヌートリアが日本に定着した原因は、元をたどれば人間の都合です。彼ら自身に罪はありません。外来種問題は、単に「害獣だから駆除する」という単純な話ではなく、人間の活動が自然に与えた影響の結果として捉える必要があります。
生態系を守るための対策の必要性を理解しつつ、命の問題として冷静に多角的な視点を持つことが、今後の自然との関わり方を考える上で重要です。
まとめ
ヌートリアは一見すると可愛らしい動物ですが、外来種として農作物や環境に被害を与えることもあります。見つけた場合はむやみに近づかず、安全な距離を保つことが大切です。特徴や性格、食性、似た動物との違いを理解することで、正しい対応や理解が可能になります。人間と自然が共存するためにも、知識を持って冷静に対応することが求められます。
